「目前に迫った50ccバイクの滅亡」のファクトチェック

池田直渡「週刊モータージャーナル」:目前に迫った50ccバイクの滅亡
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1705/08/news040.html

なかなかに間違いだらけの文章なので、ファクトチェックと称して事実関係を確認していく。
違うところがあれば指摘してほしい。


1ページ

1980年代、二輪車は多くの若者にとって今よりも身近な存在だった。多くの若者は16歳になるとバイクの免許を取り、排気量をステップアップしながら18歳を迎え、やがてクルマに乗り換える。それはごく普通の若者のライフスタイルだったのだ。

正しい。

ただし「1980年代」つまり第二次バイクブームまでのライフスタイルであり以降の時代にはマッチしない。
2017年現在、このような価値観を持つのは暴走族くらいである。(共同危険型暴走族)

1985年の二輪車保有台数は約1820万台。それが2015年には約1150万台へと激減している。

正しい。

日本自動車工業会の統計と一致する。(http://www.jama.or.jp/industry/two_wheeled/two_wheeled_3t1.html

昨年のスズキの決算発表では、鈴木修会長が「二輪については耐えるしかない」と事実上打つ手なしのコメントがあった。

真偽不明。

「落ち込みにこらえていくしかない」と伝える記事があったが前後の文脈が不明。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1605/16/news050.html

業界トップのホンダも事情は同じ、見通しは極めて暗い。なぜこんなことになったのだろうか?

間違いではない

バイクメーカー各社はアジアでの販売に支えられ、概ね好調である。
「2017年3月期のグループ販売台数は二輪は1766万1000台(+60.6%)の大幅増となった。」(https://response.jp/article/2017/04/28/294116.html
ただし国内バイク市場の縮小は避けられないので、国内市場に限れば「見通しは極めて暗い」と言ってよい。

四輪車は1960年代から排ガス規制が始まり、1976年(昭和51年)、1978年(昭和53年)に一気に規制値が厳しくなった。メーカーの多大な努力によって、それを乗り越えてきた歴史がある。
ところが、二輪車は1999年(平成11年)規制まで、長きにわたって事実上規制の埒外(らちがい)に置かれてきた。規制はあるにはあったが、2サイクルエンジンでもクリアできる程度の緩やかな規制だったのだ。クルマに比べれば圧倒的に燃費が良い二輪車の場合、燃料消費量にひも付いて有害ガスの排出量が少なく、当然環境への影響も限定的なものと思われてきたことが大きいが、小排気量から馬力を絞り出さなくてはならない二輪車の場合、排ガスをキレイにするのが難しかったのも事実である。

正しい。

2ページ

このページは特にひどいので丁寧にやっていく。

特に50cc以下(道路運送車両法では原付一種)という排気量は

正しいが不正確

「原付一種」は通称であり道路車両運送法では「第一種原動機付自転車」が正しい。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26F03901000074.html

ほとんど日本専用のガラパゴス商品で

間違い。

少なくともヨーロッパ、アメリカ、台湾、中国で販売されている。
ヤマハヨーロッパでは50ccスクーターだけで12機種がラインナップされている。
http://www.yamaha-motor.co.at/eu/products/scooters/50cc/index.aspx

世界的に見れば排気量の最下限は125cc以下(同じく原付二種)になっている。

間違い。

EUには「50cc以下かつ最大速度45km以下の2輪車」を運転できるAM免許が存在する。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%91%E3%81%AE%E9%81%8B%E8%BB%A2%E5%85%8D%E8%A8%B1

現在二輪、四輪を問わず、排ガス規制は統一化に向かっており、

正しい。

世界の排ガス規制が「125ccでギリギリクリアできる」限界を狙って厳しくなれば、

要出典

根拠がない。仮定としても唐突すぎる。

その半分以下の50ccで規制をクリアするのは難しい。

条件付きで正しい。

「技術的な課題ではなく、車体価格が高くなり販売面で苦戦するので」という条件付きで正しい。

これまでたった50ccのエンジンが実用性を持ってこられた理由は2つある。

不明

「実用性」とは何か。
これまでとはいつまでか。(何年の排気ガス規制まで?)

1999年(平成11年)の規制で、2サイクルエンジンが駆逐されて以降も四輪車の規制と比較すればまだ緩やかといえた。

正しい

1つは吸排気のバルブタイミングの問題だ。燃焼室の排気ガスをしっかり抜くことを掃気と言うが、掃気性能の向上のためには吸気バルブが開いた後も排気バルブを開け続けた方が良い。

間違い

専門用語が正しく使われていない。
4ストロークエンジンと2ストロークエンジンの用語が混ざっているため好意的に読めば意味が通じなくもないが、意味不明。
単語1つずつ見ていく。

吸排気のバルブタイミング

4ストロークエンジンにおいて使われる。2ストロークでは「ポートタイミング」。

燃焼室の排気ガスをしっかり抜くことを掃気と言う

2ストロークエンジンにおいて使われる。4ストロークでは「排気」

掃気性能の向上のためには吸気バルブが開いた後も排気バルブを開け続けた方が良い。

一般に2ストローク、4ストロークともに吸排気のオーバーラップが存在するが、用語が混在しており意味不明。



.

ただし、この方式には欠点があって、しっかり掃気しようと思えば、未燃焼の混合気が排気管に吹き抜けることと引き替えになる。

間違ってはいない。

逆に排気ガスが燃焼室に吸い込まれる場合もあるし、
2ストロークエンジンでは排気チャンバーによって吹き抜けた未燃ガスを積極的に戻す仕組みもある。

未燃焼混合気が吹き抜ければ、炭化水素(HC)が排出されてしまう。HCとは要するにガソリンのことだ。

間違いとも言い切れない

HCをガソリンと言い切るのは乱暴すぎる。

もう1つ、空気と燃料の比率、つまり空燃比だ。排気ガスが最もキレイになるのは理論空燃比14.7:1(重量比)だ。1グラム≒1ccのガソリンに対して、ざっくりと12リッターの空気と考えればいいだろう。

概ね正しい

普通、重量比でなく質量比だろうしガソリンは1ccあたり0.72~0.76gである。

もっとパワーが欲しい場合、この比率を濃くする。最もパワーが出る比率は12:1。

要出典

パワーが出る空燃比はだいたいそのあたりなのだが、12:1ジャストがベストである理論的裏付けはない。エンジンによって異なる。

ところが、これだと理論値に対して空気が少ないので、燃え残りが発生し、一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)の排出が避けられない。

正しい

空燃比12:1の場合に限ったことでなく、燃料リッチの一般の場合。

50ccという極端な小排気量エンジンが実用に足りていたのは、混合気の吹き抜けを許容するバルブタイミングとパワー空燃比によるところが大きかった。

不明

「実用に足りている」とは何か。なにを以って判断するのか明確でない。
後述するが、現在生産されている50ccバイクには三元触媒が装備されているし、なるべく理論空燃比に近づけるよう制御されている。

2006年(平成18年)に厳しくなった規制によって、こういう無茶ができなくなった。何しろ原付一種の場合、COで85%、HCで75%、窒素酸化物(NOx)50%という削減率である。「85%に落とす」のではなく「85%削減する」のだ。
さすがにキャブレターではどうやっても対応できなくなり、大排気量モデルはもとより、50ccスクーターに至るまでインジェクションが搭載されるようになった。

まあ正しい。

しかし2016年(平成28年)にはEURO4規定が適用されて、これがさらに厳しくなった。
ざっくり言って、半分近くまで削減するという高いハードルが設定された。
新型車は2016年10月1日から、継続生産車と輸入車は2017年7月1日から適用となっている。つまり新型車は去年から、継続生産車も今年の夏以降生産ができなくなるというわけだ。

正しいが50ccバイクは対象外である。

平成28年度規制を通過できるモデルは継続して生産ができる。
また、この新規制、50ccバイクは対象外である。
「総排気量が 0.050 リットル以下で最高速度が 50km/h 以下のガソリンを燃料とする原動機付自転車を除く。」(http://www.mlit.go.jp/common/001094623.pdf


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大分長くなってきたがご辛抱ください。これで最後です。このページもなかなかに長いけど。

実は排ガス規制をクリアさせる方法は既に四輪車で確立されており、技術的にはできないことではない。
精密な吸気量測定とインジェクション、それに三元触媒を組み合わせれば良い。
しかし、この三元触媒は貴金属を原料としており、高価なものだ。
低価格が売り物の原付一種に搭載できるかと言われれば難しい。
コスト以外にもスペースの問題や、パワーダウンの問題があり、さらにこの排ガス対策装置の異常を検知する装置(OBD)の取り付け義務化などコスト増の要件が山盛りだ。

間違い。

上記のアイテムは数年前からすでに50ccスクーターに搭載され、販売が開始されている。
「三元触媒」「空燃比フィードバック制御機構」
http://www.honda.co.jp/Dunk/spec/
「「DUNK」の吹き上がりが悪かったので、診断機「MCS」を使いました。」
https://blogs.yahoo.co.jp/dreamotaru/55612637.html


排ガスとは関係ないが、アンチロックブレーキの義務化もある。

間違い。

第一種原動機付自転車は対象外。
http://www.mlit.go.jp/common/001066491.pdf
ちなみにホンダの50ccスクーター10年以上前からほぼ全車にコンバインドブレーキシステム(CBS)が搭載されている。

さらに追い打ちをかけるのが、次回の規制だ。まだ検討中とは言うものの、2020年ごろを目安に、EURO4より厳しいEURO5の適用が検討されている。

正しい。

コスト増の吸収余力のある中型車以上ならともかく、50ccにはあまりにも厳しい条件である。

矛盾

これまでで「技術的にハードルが高く無理である」と論じておきながら「コストをかければ50ccにも規制がクリアできる」ともとれるこの1文は前段と矛盾している。

規制は規制として、現実社会では50ccスクーターは必要とされているし、新聞配達に使われるビジネスバイクも「なくなりました」では済まない。
しかし、これらのバイクもどうやらエンジン付きではなくなる目算が強い。
ホンダとヤマハの協業発表のリリースを見ると、既に電動二輪車の普及が強く意識されているのが分かる。
今年の3月には日本郵政とホンダは電動バイクの社会インフラ整備に向けた協業を発表している(関連リンク)。つまり長年慣れ親しんできた郵政カブも遠からず電動化されるということだ。

正しい

ちなみに郵政バイクは第二種原動機付自転車(黄色、ピンクナンバー)が数多く導入されており、
電動バイク(第一種原動機付自転車)と並行してガソリンエンジン車を使用していく可能性も十分にある。

そう遠くない将来、50ccのエンジン付き二輪車は日本から消える。これはもう疑いようのない流れだ。

不明

新車販売は無くなるかもしれない。中古車は相当期間生き残る目算が高い。

ホンダの加藤千明社長も、長期的に原付1種が内燃機関を主体として存続できるかどうかについて非常に厳しいという見解を示しており

要出典

興味深いのは電動二輪車と充電インフラは郵便事業や新聞配達のようにビジネスツールとして不可欠な仕組みの中に位置付けられていることだ。

間違い

電動バイクは車体価格が高いわりに航続距離が短いため、個人で買う人はごく少ない。
結果、まず企業やリースといった形での普及が進んでいるだけ。
電動四輪車、i-MiEVやリーフもまず官公庁や企業から購入され、普及していった。ソースは俺の記憶。


こがアーリーアダプター向け商品を脱却できていない電気自動車とは違う。

間違い

日産リーフは全世界で35万台売り上げましたが、まだ「アーリーアダプター向け商品」と呼ばないといけないでしょうか。
https://newsroom.nissan-global.com/releases/160913-01-j?lang=ja-JP

シビアなビジネスの場で揉まれることで、電動モビリティの基礎が築かれていく可能性はある。

正しい



事実関係だけを明らかにした。
個人的な意見、批評は別エントリとする。


増田で書いてたんだけど文字数制限で投稿できず。
もったいないのでブログを開設した。